両面から魅せる「里山の庭」。
激動の日々を越え、完成した癒やしの空間
町並みと調和する、やさしい木の住まい。
桐生市H様邸。木造りの美しい建物。
この温もりある建築と、周囲の町並みに調和する「里山風の庭」を目指しました。
テーマは「両面から魅せる庭」。
家の中から眺める「額縁の絵」としての景色と、道行く人が感じる「町の風景」としての庭。その両方を成立させるために、既存の素材を活かし、新たな命を吹き込みました。
そしてこの現場は、私たちにとっても忘れられない記憶と共にあります。2011年3月11日。未曾有の震災を乗り越え、完成した庭の記録です。
木のぬくもりを感じる建物。ここに緑の命を吹き込む。
1. 地中との闘い:駐車場工事の洗礼
まずは駐車場の整備から。しかし、掘り始めてすぐに困難に直面しました。
地盤が異常に硬い。ユンボの爪が悲鳴を上げるほどの硬度に加え、次々と出てくる玉石。予定より時間はかかりましたが、裏を返せば「地盤が強固」だということ。平均13cmの砕石を入れ、ガッチリとした下地を作り上げました。
ここから闘いが始まる。
掘っても掘っても石が出る。
冬の日は短い。投光器の下での作業。
盤石な下地の完成。
2. アプローチの美学:コンクリートと御影石の融合
駐車場はアプローチも兼ねています。ただのコンクリートでは味気ないため、御影石をライン状に配置。
勾配のきつい場所でも美しく見えるよう、職人が一枚一枚丁寧に高さを合わせ、目地を切ります。仕上げは左官の名工・山田さんによる刷毛引き仕上げ。機能性と美しさを両立させました。
殺風景な土間にリズムを生む。
水はけと歩きやすさを計算。
名工・山田さんの技が光る。
玄関へと自然に誘う曲線。
3. 庭の再生:既存樹の伐採と土の入れ替え
春を迎え、いよいよ庭づくり本番。既存の植木は今回の計画に合わないため、お清めをして伐採・伐根。
ライフラインが埋まる場所は手掘りで慎重に進めました。その後、良質な赤土をたっぷりと搬入。植物が喜ぶベッドメイキングです。
季節は巡り、いよいよ本番。
長年根付いた木に感謝と敬意を。
良い庭は良い土から。
4. 3.11 その時:揺れる大地と職人の決断
2011年3月11日。
市場の記念市で仕入れた良質な植木と、鳥海石を搬入し、まさに石を吊り上げていたその時でした。
経験したことのない激しい揺れ。スタッフの咄嗟の判断で事故は防げましたが、もしタイミングがずれていたら…。
帰り道の光景、停電した信号、ラジオから流れる絶望的なニュース。当たり前の日常が崩れた中、お客様の「うちはいつでもいいから」という温かい言葉に救われました。
活気あふれる市場。この直後に…。
電線を交わす高難易度の作業中だった。
崩れた壁、停電した街。
命がけで守った現場。
H様、本当にありがとうございました。
5. 再開、そして細部へ:点検通路を「小道」に変える
混乱の中、少しずつ日常を取り戻し作業を再開。
ガスや水道の点検通路となる場所も、ただの通路にはしません。木曽石をあしらい、雑木の枝を被せることで「里山の小道」のような風情を演出。
機能と美観を両立させる、田熊造園のこだわりです。
点検通路を景色に変える。
長野出身のご主人にちなんだ素材選び。
表からも裏からも美しい。
人工物と自然をつなぐ架け橋。
6. 既存を活かす:思い出の大谷石と玉石
「もし使えるものがあれば使って欲しい」。お客様の想いに応え、既存の風化した大谷石や玉石を再利用。
新品にはない「時を経た味わい」が、新しい庭に深みを与えます。ただ捨てるのではなく、価値を見出し、適所に配置する。これも庭師の腕です。
風化した表情が、庭に歴史を刻む。
水のない場所に、水の気配を作る。
7. 上空からの視点:10mの高さから見る設計図
クレーンを使って上空10mへ。普段は見られない角度から庭全体を俯瞰します。
H様邸の特徴であるノコギリ屋根のような形状と、中庭の配置が一目瞭然。地上では気づかないバランスのズレを修正し、完璧な配置を目指します。
(奥様もゴンドラに乗って大興奮でした!)
強風の中、空へ。
怖がるどころか楽しんでいらっしゃいました(笑)。
建物の形状と庭の繋がりがよく分かる。
この庭もまた、山の一部のように。
8. プライベート空間:中庭と裏庭の演出
三方を窓に囲まれた中庭には、背の高いヒメシャラを一本。成長を見越して最初から3.5m級を人力で搬入しました。
お風呂場に面する裏庭には、目隠しとしてツバキを配置。限られたスペースでも、緑があるだけで空間の質が変わります。
狭い場所でも妥協せず土を入れ替える。
人力での搬入。限界への挑戦。
足元にも鳥海石を添えて。
さりげない目隠しと彩り。
9. 仕上げの緑:メンテフリーと彩り
芝生の代わりに砂利と防草シート(ザバーン)を採用し、メンテナンスの手間を軽減。
一方で、クレマチス用の竹垣や、記念樹であるカイドウの移植など、ご家族の想いを大切にする場所もしっかりと確保しました。
見えない場所の最強の守り。
石組が浮き立ち、管理も楽に。
趣味を楽しむためのステージ。
娘さんの記念樹。一番目立つ場所へ。
完 成:両面から魅せる、里山の庭
駐車場からアプローチ、そして主庭へ。
家の中から眺める景色と、外から見る景色。その両方が成立する庭。
震災という困難を乗り越え、H様との絆で結ばれた、世界に一つの庭が完成しました。
新芽が吹き出し、命が輝く。
生長の遅い木を選び、長く楽しめるように。
石の重厚感を、植物が優しく包む。
葉が落ちても、骨格が美しい庭。
大きな窓が切り取る、大パノラマ。
コーヒーを片手に、至福の時間。
内と外が一体化する感覚。
シンプルだからこそ、美しい。
~ Spring has come ~
そして春。芽吹きの季節を迎え、庭はさらに美しく。
緑が溢れ出す。
花々が咲き乱れる。
石と緑のコントラスト。
歩くのが楽しくなる。
H様、予期せぬ震災や計画停電の中、
「ゆっくりでいいよ」という温かいお言葉に救われました。
これからもこの庭が、H様ご家族の安らぎの場所であり続けることを願っております。
本当にありがとうございました!
