眠れる在庫を「和の庭」へ再生。
継承と創造のドキュメント
「お父様の在庫を使ってほしい」という願い
今回の工事のご依頼は、千代田町のS様。風情豊かな純和風の建物にお住まいです。
実はS様のお父様は、同業の造園業を営まれていました。
「お父様の在庫(資材)を何でも使っていい」
そんなお言葉を頂き、眠っていた石や灯篭たちを、現代の暮らしに合わせて蘇らせる。そんな「再生」の庭造りが始まりました。
「どれをどこに使おうか…」
職人として、素材を選ぶこの瞬間が一番ワクワクし、同時に腕が試される瞬間でもあります。


1. 下準備:ベースを整え、動線を繋ぐ
まずは建物全周囲に縁石を設置し、防草シートを敷き詰めていきます。
地味な作業ですが、長く美しい庭を保つための「基礎」です。
玄関前の「犬走り」の延長工事。
玄関ポーチから濡れ縁までをコンクリートで結び、歩きやすく、安定感のある足元を作ります。
まずは残土を鋤取り、砕石を入れて転圧。


2. 玄関アプローチ:鉄平石で「すっきり和」に
家の顔となる玄関ポーチ。
当初は御影石を計画していましたが、スペース的に窮屈になりそうだったため、「お任せ」にして頂きました。
そこで私が選んだのは、大判の「鉄平石(てっぺいせき)」です。
ただ並べるだけではありません。
大判の石の隙間に、細かな石をあしらい「遊び心」を加えます。
このちょっとした工夫が、庭にリズムを生みます。
しっかりとモルタルで固定して目地切り。
仕上げたら周囲に防草シートを隈無く張ります。


電柱の支線が少し気になりますが、そこはご愛嬌。あるものを活かすのが今回のテーマです。
鉄平石の周りには「錆砂利」を敷き、建物の落ち着いた雰囲気と調和させます。
3. 主庭づくり:景石据付と剪定
灯籠側から主庭にかけては、色味を変えた砂利を使用して変化をつけます。
さあ、ここからが一番の腕の見せ所。
在庫の山の中から、今回使用する「景石」を選び出し、据え付けていきます。
「この石は、ここが一番輝く」という向きを探りながら。


S様邸のお庭は全周囲から見える構造。
既存のツバキが少しボサボサして視線を遮っていたので、先に剪定して整えます。
元々が刈り込み仕立てだったので透かすのは大変でしたが…スッキリしました!


4. 仕上げ作業と「ゲリラ豪雨」の洗礼
天気を見計らって、犬走り延長部分の土間コンクリートを打設。
左官屋さんにビシッと仕上げて頂きました。


コンクリート養生中に「雨落ち」部分を作成。
和瓦で枠を作り、中に防草シートを敷き詰め、那智黒石と沓脱石、飛び石を据えていきます。
これも全て在庫の中から選び出した石達です。


土で残すところ以外、全てに防草シートを敷きます。
真夏の太陽の下、この黒いシートの上での作業は…正直痺れました(笑)。


雷予報が出ていたので、大急ぎで砂利入れスタート!
…と、思った矢先に予報通りの雨。いや、バケツをひっくり返したような大雨です。


翌朝、据えた景石を洗浄し、雰囲気を見て土を入れて「地こぶ(築山)」を作ります。
石の良さを最大限活かす高さで型取りました。


そしてこの日もゲリラ豪雨(笑)。
でも、砂利を敷き終わればどれだけ降られても大丈夫。逆に砂利が洗われて綺麗になるので、恵みの雨です。


5. 外構の締め:門柱施工
最後の作業は門柱。
コンクリートブロックを積み上げ、スッキリとした1ブロックタイプの埋込みポストを設置。


笠木は瓦と悩みましたが、シンプルな天然石をチョイス。
最後に塗り仕上げをして、S様邸のお庭が完成です!


完成:在庫たちが輝く「和の庭」
雨樋の無い軒から落ちる雨は、那智黒石の雨落ちへ。
濡れると真っ黒に光る那智黒石が、雨の日さえも楽しませてくれます。


ここに組まれた石は、全てS様邸にあったもの。
奥に見える松が素晴らしい背景となり、犬走りを延長したことで建物に安定感が生まれました。
既存のツバキも良い目隠しになっています。


今回のお庭作りの最終仕上げは、なんとお客様の施工!
地こぶ(築山)への「玉竜(タマリュウ)」の植栽です。
めちゃくちゃ綺麗に植えられています!これがしっかりと詰まると、より一層緑が映えることでしょう。


眠っていた素材たちが、再び命を吹き込まれました。
S様、素晴らしい機会をありがとうございました!