和風の母屋、モダンの事務所。
「二面性」を調和させる、庭づくりの方程式
異なる顔を持つ建物を、庭で繋ぐ。
立派な土庇を持つ純和風のご自宅。その隣には、奥様がこれから使われるモダンな事務所。敷地内にあるこの「二面性」をどう活かすか。それが今回の最大のテーマでした。
さらに、目の前は交通量の多い県道。信号待ちの車列からの視線と騒音をカットしつつ、圧迫感のない景観を作らなければなりません。
RC擁壁による防音・目隠し、希少な鞍馬石の投入、そして想定外の大雪との闘い。職人の知恵と技術を総動員した現場記録です。
重厚な和風建築。化粧垂木が美しい。
隣接するモダンな事務所。全く異なるこの二つを調和させる。
県道の信号待ち。視線と騒音対策は必須課題。
1. 防御の要:RC擁壁の「黄金比」設計
騒音と視線を遮るには、RC擁壁が最適です。しかし、高くすれば良いというものではありません。高すぎれば圧迫感が生まれ、防犯上も死角ができる。低ければ意味がない。何度も協議を重ね、全てのバランスが取れる「黄金比の高さ」を導き出しました。
基礎こそ入念に。ガッチリと造り込む。
美しく並ぶ配筋は、強度の証。
高さと「折れ」の角度。これが景観と機能の要となる。
準備万端。さあ、打設だ!と意気込んだ矢先...
2. 想定外の試練:大雪からの再始動
何十年ぶりかの大雪が現場を襲いました。4〜5日空けても残る雪。しかし、現場を止めるわけにはいきません。雪かき、残土処理、既存看板の撤去を並行し、段取り力で遅れを取り戻します。
一面の雪景色。
狸ちゃんも参ってしまうほどの大雪(泣)
歴史的な大雪。自然には勝てないが、負けてはいられない。
数日経ってもこの量。まずは雪かきから再スタート!
雪と土が混ざり、過酷な作業環境。
泣きたくなる状況だが、手を動かせば道は開く。
なんとか搬出完了!これで工事が進められる。
並行して不要な看板も撤去。
3. 庭の骨格:鳥海石、天目松、そして希少な「鞍馬石」
良質な土で盛り土を行い、いよいよ造園工事のメインパートへ。鳥海石、富士の黒ボク石、そして曲線の美しい天目松(てんもくしょう)を搬入。さらに、京都の銘石で現在は採掘禁止の「鞍馬石(くらまいし)」を飛び石として贅沢に使用します。
良質土でグランドラインを上げ、立体感を出す。
鳥海石&富士の黒ボク。選りすぐりの素材たち。
美しい曲がりを持つ天目松。
雪かき効果で現場は綺麗に。いざ、作庭開始。
石を据える。窓からの「見え方」を常に意識する。
角度、高さ、奥行き。石が一番美しく見える場所を探す。
シンプルでありながら、奥行きを感じさせる配置。
室内からどう見えるか。そこが最も重要。
素材の良さを活かした、潔い石組み。
マニア垂涎の「鞍馬石」。濡れた時に真価を発揮する。
土庇の下には瓦をあしらい、和の風情を強調。
4. 表と裏の連携:擁壁で分けつつ、緑で繋ぐ
RC擁壁によって母屋と事務所の空間は仕切られますが、植栽計画では「お互いの木を利用し合う」設計に。こちら側から見た時に、擁壁越しに見える向こう側の木の緑が、借景として機能するように配置します。
仕切りながらも、景色は共有する。狭小地でのテクニック。
お気に入りのブロック「ソリッドストーン」。
濡れると表情が一変。雨の日も楽しめる素材選び。
前後の木々が重なり合い、空間に深みが生まれる。
事務所側にも緑を。町並みへの貢献も忘れない。
裏手も抜かりなく仕上げるのがプロの流儀。
5. 玄関アプローチ:御影石と石柱で「直線美」を描く
アプローチは御影石を贅沢に使い、直線基調のデザインで「清潔感」と「整然さ」を演出。門柱脇には立派な御影石の柱を立て込み、空間を引き締めます。最大の難所は、両建物のライフラインが集中する地中の配管。手作業で慎重に仕上げました。
エントランス工事へ突入。
御影石をたっぷりと用意。
一枚一枚、丁寧に敷き詰めていく。
現場に合わせて加工。熟練の技が光る。
石の硬さを和らげるように緑を添える。
門柱も積み上がり、形が見えてきた。
直線基調に合わせて、スッと伸びる木を選ぶ。
植栽が入ることで、一気に奥行きが生まれる。
事務所側はシンプルに。表裏一体のバランス。
存在感抜群の石柱が登場。
門柱脇にセット。空間がピリッと締まる。
重厚感と繊細さを兼ね備えたファサード。
コンクリートが固まったら、門柱前の仕上げへ。
最大の難所。配管のジャングルを慎重に避ける。
配管に泣かされながらも、美しく仕上げる。
狭いスペースでも高低差をつけることで立体的に。
6. 和みの仕掛け:水音、防草、そして仕上げ
夏目型の水鉢を据え、竹から水が落ちる仕組みを作りました。心地よい水音が場を清めます。足元は防草シートの上に錆砂利を敷き、雨落ちには那智黒石を。最後に駐車場の土間コンクリートを、一輪車での「スーパー小運搬」で打ち込みました。
水音を楽しむ。庭に「音」の要素を加える。
塗装の下地処理。見えなくなる部分も丁寧に。
門柱一枚で、プライベート空間が守られる。
上から見ても面白い、高低差のある景色。
設備の接続と、足元の緑化。
水出し!水鉢に命が吹き込まれる瞬間。
清らかな水音が、落ち着く空間を演出。
完成が見えてきた。
季節の花や下草で、庭に彩りを。
メンテナンス性も考慮。錆砂利の風合いが良い。
黒と錆色。雨の日にこそ映える色の対比。
最終工程、駐車場の土間コンクリートへ。
割れ止めスリットとメッシュで強度確保。
細部まで美しく仕切る。
門柱前にも駐車可能。機能性も確保。
いよいよ生コン打設。
生コン車が入れないため、一輪車でピストン輸送!
信頼する左官職人の腕が唸る。
何も言わなくても完璧な仕上がり。
門柱も塗り終わったが、何か足りない...
そう、瓦!これでビシッと締まる。
事務所側も固まり、全ての工事が完了。
完 成:二つの顔を持つ、調和の庭
重厚な和風住宅とモダンな事務所。
二つの異なる個性を、RC擁壁と植栽がつなぎ合わせました。
県道の喧騒を忘れさせる、静かな「和み」の空間です。
直線基調で統一し、重厚感と清潔感を両立。
石柱が入ることで、透け感のある軽やかな景色に。
それが、この庭の二面性であり、面白さです。
角度によって表情が変わる多面的なデザイン。
竹から落ちる水の音色。
水音があるだけで、心は穏やかになる。
沓脱石は、最高のベンチにもなる。
擁壁を嫌味なく見せ、奥行きを感じさせる手法。
適度な目隠しで、来客も心地よい空間に。
視線が気にならなくなり、濡れ縁が大活躍の場所に。
濡れた鞍馬石の深い錆色。これが本物の魅力。
天目松にとっても最高の舞台。
芽吹けばまた違う表情に。季節の変化が楽しみ。
見えにくく、使いやすい。最短距離の動線。
繋がっているけれど、別物に見える。
見えすぎず、隠しすぎない。こだわりの高さ設定。
近日中に照明工事へ。夜の表情もお楽しみに!
